周回遅れの日記

はてなダイアリーから移転

同意なくして位置情報が通知される件について

警察や消防にGPS情報がバレちゃうかもよ、という話。
生命の危険が迫るときには救助機関に位置情報、3月から

これの26条4項ですね。

(位置情報)
第26条
電気通信事業者は、利用者の同意がある場合、裁判官の発付した令状に従う場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いては、位置情報(移動体端末を所持する者の位置を示す情報であって、発信者情報でないものをいう。以下同じ。)を他人に提供しないものとする。
(2項と3項は省略)
4 電気通信事業者は、前項のほか、救助を要する者を捜索し、救助を行う警察、海上保安庁又は消防その他これに準ずる機関からの要請により救助を要する者の位置情報の取得を求められた場合においては、その者の生命又は身体に対する重大な危険が切迫しており、かつ、その者を早期に発見するために当該位置情報を取得することが不可欠であると認められる場合に限り、当該位置情報を取得するものとする。

電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン

25条に定める発信者情報に加えて、26条に定める位置情報も救助機関が取得することが可能になるということであります。
本人の同意(推定的同意も)を要件としておりません。
つまり、今すぐ救助しないと生命が危ないというマジで緊急のときに、本人の真意がどうこうといったやり取りで貴重な時間を浪費しなくて済むということです。同時に、本人が嫌と言っても絶対に拒否できない*1、ということでもあります。

こういう場合であっても、あくまで本人の同意を得たという形を維持すべきだという意見がよく主張されております。「人命救助のための位置情報通知アプリ」のようなものを総務省なり警察庁なりが提供して、このアプリをインストールした人の救助に限って位置情報を利用させるようにすればよい、という意見です。

とはいえ、現実にはそういうのは難しいのではないかと思います。
たしかに、PCやスマホに慣れてる人なら、その手のアプリの機能と必要性を正しく理解して、同意のもとにアプリをインストールし、同意の範囲内でGPS情報を警察や消防に利用してもらうことに提供されることでしょう。
ただ、世の中にはそういう人ばっかりじゃないわけで。

少なからず、「救助アプリ」をインストールしない人が出てくる。
その場合に、アプリをインストールしていないから位置情報が取れないので捜索を断念しました、あるいは位置情報の取れている他の遭難者を優先するため後回しにしました、という割り切りができるか、というと難しいのではないかと思います。
「本人は救助を望んでいたが、アプリのインストール方法が分からなかったので放置していた」
「本人はアプリをインストールしたつもりだったが、実はインストールされていなかった」
といった可能性が考えられるからです。高齢者の場合なんかは特に。
性質上、しょっちゅう使うアプリではありませんから、オンなのかオフなのかユーザーにとっても自覚しにくいと思うんです。

家族やマスコミが「とにかく人命第一でやれることはなんでもやってくれ」と言うのに対して、救助機関が「位置情報を取得させないのは本人の意思だから」と果たして押し切れるかどうか。アプリをインストールしていないということを根拠として、位置情報の取得拒否は本人の意思であると断定できるかというと難しいんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか。

子どもに持たせる携帯については誰が決めるのかも問題です。
フィルタリングとかと同じに考えて良いのか。

「救助アプリ」の一般人への周知をどうすんのか、というのもちょっと難しい。
「この救助アプリってインストールして大丈夫?危険なアプリじゃないよね?」
と素人さんに聞かれたときに、「ご自分の責任で判断してください、よく分からないアプリはインストールしてはいけません」と教科書的な回答をすると、「そうか、よく分からないからやめておこう」と入れない人がかなり出てきますよね。
かといって、「大丈夫です政府の作ったアプリですから政府を信用して必ず入れてくださいね」と政府が宣伝して回るのも、真摯な同意を得るプロセスにおいては正しいあり方ではないように思います。

国内キャリアの携帯、スマホにはすべて「救助アプリ」がプリインで入ることになるのでしょうが。
でも、国内キャリアの製品を購入した以上「救助アプリ」の利用に同意した、とみなしてしまうのは、ちょっと「同意」を希薄しすぎであるように思います。かといって、購入しただけではダメで、いったん「救助アプリ」を起動して同意をタップしなければならないという扱いにしてしまうと、今度はそんなのが必要なんて知らなかった!という人が必ず出てくる。一度も触らないプリインストールアプリなんていっぱいありますしね。

そういった点を考えると、一律強制、拒否を認めないというのは、現時点ではやむを得ないのかなあというのが今の私の考えです。生まれたときからケータイ使ってる今どきの若い子が高齢者になるころには状況がずいぶん変わると思いますが、今は仕方ないかなあ、と。

でも嫌ですよね
すごく嫌。こういうのすごく気持ち悪いもん。

理想的な形としては、治療における延命拒否や臓器提供の意思なんかと一緒に、本人が意思表示をできなくなった場合の希望を包括的にどっか(居住地の市区町村とか警察署とか消防署とか)に登録しておくシステムを作るべきなのでしょう。アプリのインストールではなくて、ようやく今年スマホデビューなんですが的な人でも書面の申告で同意/拒否の意思表示を受け付けて登録できるシステムを作る。
そこに、遭難した場合にどこまでやって欲しいか、救助のために洗いざらい調べさせてもらってもいいかを予め登録しておく。拒否したい人はそこで拒否と登録する。難しいことはよく分かんないんですがどう登録すればいいの?、という人には市区町村のカウンセラーが納得のいくまで相談に乗ってやる。でも、個人情報保護とかいろいろ課題があって、すぐに実現するのは難しそうです。そういうの、営業マンからすれば垂涎のデータベースだもんね…

*1:GPSをオフにして基地局と絶対に通信しなければいいですが、現実的ではありませんね。